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 パニック症状かも?~パニック障害の診断について~

今回は、「パニック障害の診断」について、少し詳しく解説いたします。

突然、心臓がバクバクして、息ができなくなって、目の前が真っ暗になる…。まるで心臓発作のような強烈な症状。でも病院で検査をしても「異常なし」と言われてしまう。そのような経験をされた方が、後になって「パニック障害」と診断されることがよくあります。

「本当にこれが心の病気なの?」
「ただのストレスと言われても納得できない…」

そう感じるのはごく自然なことです。この記事では、なぜこのような症状が起きるのか、どのように診断されるのか、どの様なときに専門医相談すべきかについてご説明します。

 

パニック障害とは?

まずパニック障害とは、繰り返し突然強い不安発作が起きる病気です。この発作は「パニック発作」と呼ばれ、次のような身体的・精神的な症状が急激に現れます。

・動悸、心拍数の増加

・息切れ、息苦しさ

・胸の痛み、しめつけ感

・めまい、ふらつき、失神しそうな感じ

・手足のしびれ

・非現実感(ここがどこか分からない感じ)

・「死んでしまうのでは」という恐怖

パニック発作は、明確な原因や危険がない場面でも突然起こります。電車の中、会議中、スーパーのレジ待ちなど、日常生活の中で起きることが多く、繰り返されることで「また起こるのではないか」と強い不安(予期不安)を持つようになります。

 

*パニック障害の診断はどうやって行われる?

診断にはいくつかのステップがあります。

  1. 身体疾患の除外

まず重要なのは、「心臓や脳などの病気ではないこと」をしっかり確認することです。動悸や息苦しさという症状は、心筋梗塞、不整脈、甲状腺機能亢進症、低血糖発作などでも起こります。

そのため、多くの患者さんが最初は循環器内科や救急外来を受診します。検査をしても「異常がない」と言われ、不安なまま日常に戻る。しかしまた発作が起きて、今度は「精神的なものかもしれない」と気づく。このような流れでメンタルクリニックを受診される方が多いです。

当院でも、必要に応じて身体的な評価を行い、身体疾患による症状でないことを確認したうえで診断を進めます。

  1. DSM-5による診断基準

精神科・心療内科では、「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)」という国際的な診断基準を用いて診断します。

以下のような要件を満たすと、パニック障害と診断されます。

【A】パニック発作の繰り返し

明確な原因がない状況で、突然、強い恐怖や不快感が高まり、数分以内にピークに達する発作が繰り返されること。この発作の中で、以下の13項目のうち少なくとも4つが出現している必要があります:

  1. 動悸、心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身体のふるえや震え
  4. 息切れ、呼吸困難
  5. 窒息感
  6. 胸の痛みまたは圧迫感
  7. 吐き気、腹部の不快感
  8. めまい、ふらつき
  9. 冷感または熱感
  10. 手足のしびれやピリピリ感
  11. 離人感(自分が自分でないような感覚)
  12. コントロールを失う恐怖、または「気が狂うかもしれない」という恐怖
  13. 死への恐怖

【B】発作後の不安と生活の変化

発作の後、少なくとも1ヶ月以上にわたって以下のような影響があること:

  • 「また発作が起きるのでは」という強い不安(予期不安)
  • 発作を避けようとして行動を制限する(回避行動)

【C】薬物や他の病気によるものではない

薬物(カフェイン、薬物乱用など)や他の身体疾患(甲状腺、心疾患など)によって起きているものではないことを確認します。

【D】他の精神疾患とは区別される

うつ病、PTSD、社交不安障害、強迫性障害などの他の精神疾患によって説明できない場合に診断されます。

 

*正確な診断のために必要なこと

パニック障害は、身体的な病気のように感じられる精神疾患です。そのため、診断には患者さんの「詳しいお話」がとても重要になります。

当院では、

・発作が起きた状況、頻度、継続時間

・どんな感覚があったか

・それによって日常生活がどう変わったか

・他の精神的・身体的な症状の有無

・生活背景やストレス因子の有無

などを十分に伺い診断を行います。

「自分で判断せず、まずは相談を」

パニック発作を経験された方の多くは、「また起きたらどうしよう」と不安になり、外出を避けるようになります。そして次第に、仕事や人間関係にも影響が出てしまいます。

「こんなことで精神科に行くのは大げさでは…」
「気の持ちようではないかと言われた…」

そんなふうに思われる方もいらっしゃいますが、パニック障害はれっきとした“治療可能な病気”です。決して甘えでも、弱さでもありません。

  • 病院で異常はないのに強い発作が繰り返される
  • それによって日常生活に支障が出ている
  • 発作が起きそうで外出できない
  • 「また起きるのでは」と毎日不安でたまらない

このような状態であれば、一度専門医にご相談ください。

 

まとめ

パニック障害は、身体の不調のように見えて、心の働きのバランスが崩れることで起こる病気です。「自分の症状が何なのか知りたい」「少しでも楽になりたい」そんなお気持ちがあれば、まずは正確な診断を受けることが、回復への第一歩となります。

診断がついたからといって落ち込む必要はありません。むしろそれは、これまで原因がわからないつらさの理由がわかったということ。
そして、それに合った正しい治療法を選ぶことができるようになり、健康な生活を取り戻すことが可能になります。

当院では、診断から治療までを丁寧にサポートし、ご本人のペースに合わせた回復を大切にしています。症状への心あたりがあれば、お一人で悩まずにどうぞお気軽にご相談ください。

 

参考文献:

『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

パニック発作の診断基準|メンタルヘルス|厚生労働省

 

ミチワクリニック

院長 佐久間一穂