職場のメンタル不調「適応障害」とは?原因・症状・治療・職場の対処法まで解説
今回は、職場のストレスで悩んでいる方が陥りやすい「適応障害」について、詳しくご紹介します。
「最近、職場に行くのがつらい」「急に体調が悪くなる」「気分が落ち込む」…そんな方は、もしかすると適応障害かもしれません。
外来を受診される方でも非常に多い疾患で、早期に気づいて対処することで回復が見込める病気です。
この記事では、医学的な知識をもとに、適応障害の原因から治療法、職場での対策までわかりやすく解説します。
🔶適応障害とは? 〜ストレスへの“こころと体の拒否反応”〜
適応障害は、強いストレスを受けたときに心や体が適切に対応できず、不調をきたす状態を指します。
「適応できない自分が悪い」と思いがちですが、これは“こころの過負荷”に対する正常な反応です。
●医学的な定義(DSM-5より)
アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」では、以下のように定義されています:
明確な心理社会的ストレス因子に対して、3ヶ月以内に情緒的または行動的な症状が出現し、その症状が日常生活に支障をきたしている状態。
つまり、「何が原因で」「いつから」「どのような不調が起きているか」がポイントです。
原因が明確で、日常生活に支障をきたすほどの影響がある場合、適応障害の可能性があると言えます。
🔶職場での主な原因4パターン
職場は、社会生活の中心であり、ストレスの発生源にもなりやすい場所です。以下のような出来事が、適応障害のきっかけになりやすいとされています。
- 人間関係のストレス
・上司のパワハラ、同僚とのトラブル、部下との対立
・雰囲気が合わない職場、孤立感
・コミュニケーション不足や過剰な干渉など
人間関係の悩みは、心理的ストレスの中でも特に影響が大きく、自尊心の低下や自己否定につながりやすくなります。
- 業務量・責任の重さ
・過剰な残業や休日出勤
・ノルマや納期に対するプレッシャー
・責任の重いプロジェクトへの突然の配属
「頑張っても終わらない」「失敗できない」という思いが、精神的な圧迫感や燃え尽き(バーンアウト)につながります。
- 環境や立場の変化
・部署異動・転勤・昇進・降格
・上司・同僚が一新される環境
・リモートワーク導入など働き方の変化
適応には時間がかかります。周囲が早く結果を求めたり、自分自身に「適応しなければ」とプレッシャーをかけると悪循環になります。
- 私生活との両立困難
・育児・介護との両立
・離婚、家族の病気や死別
・経済的な不安
職場以外の悩みも影響します。心に余裕がなくなると、些細な職場の出来事にも過敏になり、適応障害を引き起こすことがあります。
🔶適応障害の症状:こころ・行動・体に現れるサイン
症状は大きく3つの領域に分かれます。症状の出方には個人差があり、すべての症状が出るとは限りません。
① こころの症状(情緒面)
・抑うつ気分(気分が沈みがちになる)
・イライラ、焦燥感
・強い不安、恐怖感
・自分を責める、自信の喪失
・急に涙が出る、情緒不安定になる
② 行動の変化
・遅刻・欠勤が増える、突然の早退
・業務への集中力低下、ミスの増加
・報連相を避ける、対人接触を避ける
・飲酒や喫煙の増加、暴言・暴力などの衝動的行動
・「もう辞めたい」「いなくなりたい」という思考
③ 身体的な症状
・不眠(寝つけない、何度も目が覚める)
・頭痛・胃痛・下痢・動悸・息苦しさ
・食欲の低下、または過食
・倦怠感、肩こり、疲れが取れない感じ
これらはすべて、ストレスによる自律神経の乱れやホルモンバランスの変化から来る症状です。
🔶適応障害の診断と治療
●診断方法
医療機関(精神科や心療内科)では、ストレスの内容や症状の経過について丁寧に聞き取り、うつ病や不安障害との違いを見極めたうえで診断が下されます。
診断の3つのカギ:
- ストレス要因がはっきりしているか
- 症状がそのストレスの開始から3ヶ月以内に出ているか
- 社会生活(仕事や人間関係)に支障が出ているか
●主な治療法
① 心理療法(カウンセリング)
・認知行動療法(CBT):思考のクセに気づき、ストレスに強くなる考え方を育てる
・支持的精神療法:共感や受容を通じて安心感を回復する
② 薬物療法(必要に応じて)
・抗不安薬
・抗うつ薬
・睡眠導入剤
※薬はあくまで補助的手段。依存や副作用のリスクもあるため、医師の指示を守って使用することが重要です。
③ 環境調整と休養
・一時的な休職や、リモートワークの導入
・上司との関係調整、職場の異動など
・職場に戻る前には「リワーク支援プログラム」を活用することもあります
🔶職場での適切な対処法:周囲の理解がカギ
- 上司・同僚ができること
・早期に「様子がおかしい」と気づく
・無理に励まさず、話を「聞く」ことに徹する
・産業医や人事部門と連携して環境を整える
・プライバシーに配慮しながら、本人の意向を尊重する
- 復職サポートのポイント
・いきなりフルタイムではなく「短時間・軽作業」から始める
・定期的なフォロー面談を実施する
・「また悪化するのでは」という不安に寄り添う
・本人の努力を評価し、無理をさせない
- 企業の制度活用と取り組み
・柔軟な働き方(フレックス・リモート)の導入
・ハラスメント相談窓口の整備
・ストレスチェックや産業医面談の充実
最後に:適応障害は「逃げ」ではなく「回復のサイン」
適応障害は、心と体が「これ以上無理しないで」と警告を出している状態です。
頑張ることは大事ですが、限界を超えてしまう前に休むことも“自分を守る選択”です。
「最近、仕事がつらいな」と感じたら、一度立ち止まってみてください。
心と体に耳を傾けることで、早期発見・早期治療につながり、結果として元気に働き続けることができます。
参照:
院長 佐久間一穂
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