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何もしたくない日が続くのは、甘えではなく「うつ病」の可能性あり

はじめに|「何もしたくない」は甘え?うつ病との決定的な違い

「何もしたくない」「朝、布団から出ることを考えただけで強い疲労を感じる」「理由は分からないが、心も体も重い」——このような状態が続くと、多くの人はまず自分を責めます。「自分は怠けているのではないか」「もっと頑張らなければならないのではないか」と考え、無理に動こうとして、さらに消耗してしまうことも少なくありません。

しかし医学的に見ると、「何もしたくない日が続く」という状態は、意志や性格の問題ではなく、うつ病の中核症状である可能性が高いとされています。本記事では、うつ病を医学的にどのように理解するのか、「やる気が出ない」状態がなぜ起こるのか、誤解が生まれやすい理由、そして治療や回復の考え方について、できるだけ丁寧に解説します。

<うつ病とは何か|医学的定義と診断基準(DSM・ICD)>

うつ病(大うつ病性障害)は、気分障害の一つで、精神科・心療内科で日常的に診療されている疾患です。国際的にはDSM-5-TRやICD-11といった診断基準が用いられ、以下のような症状が重要視されます。

  • 抑うつ気分(ほとんど一日中、ほぼ毎日)
  • 興味や喜びの著しい減退
  • 食欲不振または過食、体重変動
  • 不眠または過眠
  • 精神運動制止または焦燥
  • 疲労感、気力の減退
  • 無価値感、過剰な罪責感
  • 集中力や決断力の低下
  • 死についての反復思考、希死念慮

これらのうち複数が2週間以上持続し、仕事・学業・家庭生活などの社会機能に明らかな支障をきたしている場合、うつ病と診断されます。重要なのは、診断が「気分」だけでなく、行動、思考、身体状態まで含めた総合的な評価で行われる点です。

<「何もしたくない」「やる気が出ない」は怠けではない|うつ病の中核症状>

うつ病の人が感じる「何もしたくない」は、単なる気分の問題ではありません。脳内では、意欲や行動開始に関わる前頭前野や報酬系ネットワークの活動が低下していることが、画像研究などから示されています。

特に関与するのが、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質です。これらは感情の安定、意欲、集中力、達成感などに深く関わっています。うつ病ではこれらの働きが低下・不均衡となり、

  • 行動を始めるための「エネルギー」が湧かない
  • 何かをしても報酬感や満足感を得られない
  • 簡単な作業でも過度に疲れる

といった状態が生じます。本人の中では「やらなければいけない」と分かっていても、脳がうまく指令を出せないため、行動に移せないのです。

<うつ病の身体症状|疲労・頭痛・胃腸症状が続く理由>

うつ病は「心の病気」と表現されることが多いですが、実際には身体症状が非常に重要な位置を占めます。代表的なものには以下があります。

  • 慢性的な倦怠感、疲労感
  • 頭痛、肩こり、腰痛
  • 動悸、息苦しさ
  • 胃痛、下痢、便秘、食欲不振
  • めまい、ふらつき

これらは自律神経系やホルモン系の調整不全と関係しており、内科的検査では「異常なし」と言われることも少なくありません。その結果、「原因不明の体調不良」として長期間苦しみ、背景にうつ病があることが見逃されるケースもあります。

~「甘え」「怠け」という誤解がうつ病を悪化させる理由~

ここで、よく見られるケースを一つ紹介します(内容は一般化した架空の事例です)。

体験談(架空事例)|30代会社員Aさんの場合

Aさん(30代・会社員)は、数か月前から「朝起きられない」「仕事に行こうとすると体が鉛のように重い」と感じるようになりました。休日は一日中横になり、「何もしたくない自分はダメだ」と強く自分を責めていました。

上司や家族からは「疲れているだけでは?」「甘えているのでは?」と言われ、Aさん自身も「気合が足りない」と思い込み、無理に出勤を続けました。しかし、集中力は落ち、簡単なミスが増え、自己嫌悪はさらに強くなっていきました。

最終的に心療内科を受診したところ、うつ病と診断され、休養と治療を開始。数週間後、少しずつ「何もしたくない」感覚が和らぎ、Aさんは初めて「これは怠けではなく病気だったのだ」と理解できたといいます。

このように、「甘え」という評価は、当事者に強い自己否定を与え、受診や治療の遅れにつながります。その結果、症状の慢性化や重症化、さらには自殺リスクの増大を招くのです。医学的には、うつ病は治療対象となる疾患であり、努力や根性で乗り切るべきものではありません。

<うつ病の原因|生物・心理・社会モデルで理解する>

うつ病は単一の原因で発症するわけではなく、生物・心理・社会モデルで理解されます。

生物学的要因

遺伝的素因、神経伝達物質の機能変化、睡眠覚醒リズムの乱れ、ホルモンバランスの変化などが関与します。

心理的要因

几帳面、完璧主義、自己評価の低さ、過去のトラウマ体験などは、ストレスに対する脆弱性を高める要因となります。

社会的要因

長時間労働、パワーハラスメント、育児や介護の負担、孤立、経済的不安など、環境的ストレスも発症や悪化に深く関わります。

これらが複雑に絡み合い、ある時点で脳と心のバランスが崩れることで、うつ病が発症します。

<うつ病の治療法|休養・心理療法・薬物療法の三本柱>

うつ病の治療は段階的かつ包括的に行われます。基本となるのは以下の三本柱です。

  1. 休養と環境調整

まず必要なのは、脳を回復させるための十分な休養です。仕事量の調整や休職は「逃げ」ではなく、治療の一環です。

  1. 心理療法

認知行動療法などの心理療法は、考え方の偏りに気づき、ストレスへの対処力を高めるのに役立ちます。

  1. 薬物療法

抗うつ薬は神経伝達物質の働きを調整し、意欲や感情の回復を助けます。依存性は基本的になく、効果が出るまで数週間かかることが一般的です。

家族・職場ができる支援|うつ病の人への正しい関わり方

家族や職場にできる最も重要な支援は、「理解しようとする姿勢」です。安易な励ましや説教よりも、

  • 話を評価せずに聴く
  • 具体的な負担を減らす
  • 受診や休養の判断を尊重する

といった対応が、回復を大きく支えます。

<心療内科・精神科を受診する目安|放置しないために>

「何もしたくない」「楽しめない」状態が2週間以上続き、生活に支障が出ている場合は、心療内科や精神科への相談を検討してください。早期治療は回復を早め、再発の予防にもつながります。希死念慮がある場合は、早急な専門的支援が必要です。

 ~まとめ|何もしたくない日が続くなら、甘えではなく治療を~

何もしたくない日が続くのは、決して甘えではありません。それは、うつ病という医学的に説明できる状態であり、治療と支援によって回復が期待できるものです。自分を責めるのではなく、助けを求めること。それこそが、回復への最も重要な一歩なのです。

 

八丁堀 日本橋 心療内科 精神科 ミチワクリニック|東京都中央区

院長 佐久間一穂