強迫性障害(OCD)

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強迫性障害(OCD)とは?
〜不安にとらわれてしまう
こころの病気〜

「何度も確認しないと気がすまない」「手を洗っても、まだ汚れている気がする」
こうした思いや行動が、自分でも「やりすぎかも」と思いながらも止められず、日常生活に支障が出ている――



それが強迫性障害(OCD:Obsessive-Compulsive Disorder)です。
誰にでも一度は「鍵を閉めたか気になる」ような経験はありますが、強迫性障害ではその不安が繰り返し起こり、自分でも困ってしまうほど強く続きます。

強迫性障害ってどんな病気?

この病気は、「強迫観念」と「強迫行為」という2つの特徴的な症状によって成り立っています。

 

強迫観念:

 

頭の中に繰り返し浮かんできて、どうしても気になってしまう考えやイメージのことです。
たとえば…

  • 手が汚れている気がする(汚染に対する不安:汚染恐怖)
  • 火の元や鍵の締め忘れが心配になる(確認の不安:確認強迫)
  • 自分が誰かを傷つけてしまうかもしれないという恐怖
    (加害の不安:加害恐怖)
  • 物の位置や順番が「ちょうどよく」ないと落ち着かない(秩序強迫)

こうした考えは本人にとってつらく、「そんなことないはず」とわかっていても、何度も頭に浮かんできます。

 

強迫行為:

 

強迫観念からくる不安や不快感を落ち着かせようとして、ついやってしまう行動です。
たとえば…

  • 何度も手を洗う
  • 戸締まりやガスの元栓を繰り返し確認する
  • 特定の数字や順番にこだわる
  • 頭の中で決まった言葉を唱える

このような行動をやめようとすると、不安が強くなってしまうため、自分でも苦しい思いを抱えてしまいます。

 

※多くの人は強迫観念と強迫行為の両方を持っていますが、いずれか一方のみの場合もあります。

 

どのくらいの人が
悩んでいるの?

強迫性障害は決してまれな病気ではありません。

  • 約100人に2~3人の割合で起こるとされ、誰にでも起こりうるこころの病です。
  • 子どもから大人まで幅広い年代にみられますが、10代後半から20代前半で発症することが多いです。
  • 男女で発症率に大きな違いはありません。

 

初めは軽い症状だったものが、次第にエスカレートして、学校や仕事、家庭生活に影響を及ぼすようになることもあります。

なぜ起こるのでしょうか?

強迫性障害の原因は、はっきり1つに決まっているわけではありません。いくつかの要因が重なって発症すると考えられています。

脳のはたらきとの関係

脳の中でも「不安や判断」に関わる部分(前頭葉や線条体)に、情報のやり取りの偏りがあることがわかっています。
また、「セロトニン」という神経伝達物質の働きのバランスが関係しているとも言われています。

脳のはたらきとの関係

性格や考え方の傾向
  • 几帳面
  • 完璧主義
  • 責任感が強い
  • 間違いをとても気にする

といった性格傾向が強い方が、発症しやすいとされています。

性格や考え方の傾向

ストレスや環境要因
  • 大きな生活の変化(進学・転職・出産など)
  • 身近な人の病気や死
  • 強い緊張やストレス

などが引き金になることもあります。

ストレスや環境要因

治療について

強迫性障害は、きちんと治療すれば改善が期待できる病気です。
治療は、「お薬による治療」と「カウンセリング(認知行動療法)」の2つを中心に行います。

 

薬物療法
(くすりによる治療)

「セロトニン」の働きを整える抗うつ薬(SSRI)が中心になります。
このお薬は不安やこだわりをやわらげる効果があり、継続して飲むことで症状が落ち着いてくる方が多くいらっしゃいます。
体質や症状に応じて、他のお薬を組み合わせることもあります。

認知行動療法(CBT)

とくに効果が高いとされているのが、「曝露反応妨害法(ERP)」という方法です。
これは、不安を感じる場面に少しずつ慣れていき、「強迫行為をしなくても大丈夫」と体験を通して学んでいく療法です。
たとえば、汚れが気になる方が少しずつ「手を洗わないでいられる時間」をのばしていくような練習を行います。
当院でも、臨床心理士による専門的なサポートのもと、安心して取り組めるようサポートしています。

家族やまわりの方へ

強迫性障害の症状は、一見すると「ただのこだわり」に見えたり、「本人の努力が足りない」と誤解されやすいものです。
でも、本人は苦しく、やめたくてもやめられない葛藤の中にいます。
周囲の方には、

  • 否定せず、まずは話を聞くこと
  • 強迫行為に巻き込まれすぎず、適切な距離を保つこと
  • 一緒に治療に取り組んでいく姿勢をもつこと
が大切です。
ご本人も、ご家族もひとりで抱えこまず、ぜひ専門家にご相談ください。

最後に

強迫性障害は、「こころのクセ」が強く出てしまうような状態です。
でも、正しく理解し、適切な治療を受けることで、必ずよくなっていくことができます。

「こんなことで病院に行ってもいいのかな…」と迷っている方も、どうぞ気軽にご相談ください。ご自身のペースを大切にしながら、安心して向き合えるよう、当院ではお手伝いしてまいります。

<補足>
認知行動療法の進め方

強迫性障害(OCD)の治療では、「認知行動療法(CBT)」という心のトレーニングのような治療法が効果的です。
ここでは、認知行動療法の中でも特に有効な「曝露反応妨害法(ERP)」の流れをご紹介します。

まずは「困っていること」を一緒に整理します

「どんな場面で不安を感じるか」「どんな行動をやめられないか」を一緒に確認し、気持ちや習慣を見える形に整理していきます。
無理に話す必要はなく、ペースに合わせて少しずつ進めますのでご安心ください。

「不安の階段」を作っていきます

強迫行為をやめるのはとても勇気がいります。
そのため、「いきなり大きなこと」ではなく、「小さなステップ」から取り組んでいきます。
たとえば:

  • ●ドアノブを触った後、手を洗うまでの時間を5分だけ我慢してみる

  • ●火の元の確認を1回だけにしてみる

など、できそうなことから始めていきます。

少しずつ「やらずにいられる体験」を増やします

「不安になること(曝露)」をあえて体験し、そのあと「いつもの行動(反応)」をしないようにしてみます。
初めはとても緊張しますが、やってみると「意外と大丈夫だった」と感じられることが多く、不安が少しずつ小さくなっていきます。

自信と安心感を少しずつ取り戻していきます

練習を重ねるうちに、「強迫行為をしなくても落ち着いていられる」ことが増えてきます。
このプロセスを通して、不安との付き合い方を学び、自分自身を取り戻していきます。

日常生活の中で活かしていきます

治療が進むと、日常生活でも自然に「強迫行為をしなくても大丈夫」と感じられるようになります。
再発を防ぐポイントも一緒に確認しながら、自分の力でこころのバランスを保てるようサポートします。

不安に立ち向かうのではなく、
「慣れていく」ことが大切です

認知行動療法では、「不安をなくす」ことを目指すのではなく、「不安があっても振り回されずに過ごせる力」を育てていきます。
そのため、無理せず・焦らず・少しずつが合言葉です。
「できたこと」を少しずつ積み重ねながら、心にやさしく取り組んでいきましょう。